| ぼくの育った家には、売るほどアイスがあった。
別に金持ちだったわけではない。中学校の前の通りにある小さな文房具店で、 ほんとにアイスを売っていただけである。
そんなわけで、アイスは、毎日のように食べていた。もちろん、高級なアイスクリームじゃなくて、舌が真っ赤(真っ青?)になるようなもので、
たいてい木の棒についた氷菓子なんかが多かった。
たまに、カップに入ったアイスクリームを食べるというのは、ずいぶん贅沢なように感じた。とくに、バニラのアイスクリームは、なんとなく大人の味がするように感じた。
カップのアイスクリームには、小さな「木のさじ」がただでついていた。 「木のさじ」は、紙の袋に入っていた。別に、普通のスプーンで食べてもかまわないはずなんだけど、カップのアイスクリームは、「木のさじ」で食べるものだと思っていた。カップ入りのかき氷なんかを、この「木のさじ」で食べると、へなへなの「木のさじ」がまがったり、折れたりすることもよくあった。
このアイスのおまけのような「木のさじ」に思いいれをもち、それを、ステンレスでつくろうなんてことを考えたデザイナーがいる。それが、清水久和さんだ。
彼は、有名メーカーの社内デザイナーとして仕事をする一方で、「とるにたらないけど身の回りにあり、誰がデザインしたかわからないような、愛すべき日用品」を紹介する「愛のバッドデザイン」という個人活動を続けている。
この「アイスのさじ」は、その活動から生まれた。
おまけでもないし、使い捨てでもない。でも、普通のスプーンでもない。
このさじでアイスを食べるとどんな味がすると思いますか? アイスを食べる専用のさじとして、こんなに贅沢なものは、他にはないかもしれない。
それにしても、この「アイスのさじ」は、本当にいいデザインって何だろうと考えさせられる。まあ、あんまり深く考えずに、しゃれとして使った方がいいのかなあ。アイスを食べる以外に使ってもいいみたいですよ。どんな使い方をしたか教えてくれるとうれしいですね。
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